大判例

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大津地方裁判所 昭和63年(行ウ)5号 判決

主文

原告の各請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、原告の昭和六二年六月八日付で行った浄化槽清掃業許可申請及び浄化槽汚泥収集運搬業許可申請に対して昭和六二年七月一四日付で行った各不許可処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、湖東地域の愛知郡、犬上郡内の愛東、湖東、秦荘、愛知川、豊郷、甲良、多賀の七町(以下、本件区域という)が各地域における、し尿処理に関する事務を共同して行う目的で設立した一部事務組合である湖東広域衛生管理組合(以下、組合という)の管理者である。

原告は、昭和六二年六月八日付で、被告に対し、浄化槽法三五条に定める浄化槽清掃業の許可申請(以下、本件清掃業許可申請という)及び廃棄物処理及び清掃に関する法律(以下、廃棄物処理法という)七条に定める浄化槽汚泥収集運搬業の許可申請(以下、本件運搬業許可申請という)を行った。これに対し、被告は、同年七月一四日付で右各申請に対し不許可処分を行った。原告は、そのころ右清掃業許可申請に対する不許可処分(以下、本件清掃業不許可処分という)を知ったので、同月二七日付で右清掃業不許可処分に対する異議申立をなし、被告は、同年九月一七日付で右異議申立を棄却した。原告は昭和六三年二月二二日ころ右異議申立棄却と右運搬業許可申請に対する不許可処分(以下、本件運搬業不許可処分という)を知った。

2  しかしながら、被告の右各不許可処分は違法であるから、その取消を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  請求原因2の主張は争う。

三  被告の主張

1  本件運搬業不許可処分について

(一) 運搬業許可制度の性質

一般廃棄物を収集運搬処分することは、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的とする市町村の固有事務である(地方自治法二条三項七号、四項、九項、別表第二、二、(十一))。従って、市町村(地方公共団体の組合を含む。以下同じ)は、その区域内における一般廃棄物の処理について、市町村が定めた一定の計画(廃棄物処理法六条一項)に従って、一般廃棄物を収集運搬処分しなければならないが、これを全て市町村自ら直接又は委託により行うことが実際上できない場合もあるので、かかる場合一般廃棄物処理業者をして処理させることとし、市町村に課せられた一般廃棄物処理事務を代行するものとして規制されるべきものであるから、市町村長あるいは地方公共団体の組合の管理者は、その営業の許可については、市町村の作成した一般廃棄物処理計画に従い、法の目的に照らし、当該市町村の実情のもと自律性、専門技術政策的判断の尊重される広範な裁量権をもつものと解される。

(二) 処理計画

組合の昭和六二年度一般廃棄物処理計画は、本件区域内の年間収集量がし尿一万八九九八キロリットル、浄化槽汚泥三六七三キロリットル、農村下水道汚泥四一四キロリットル、合計二万三〇八五キロリットルと予定し、これを別紙1のとおり愛犬清掃社こと西川源次良、愛知川衛生社こと中村静江、北川清掃社こと北川定光、北川産業株式会社の四業者(以下、既存四業者という)で収集運搬するものとしており、原告の前記申請は右計画に適合しない。

(三) 既存四業者の収集運搬設備、能力

被告は、昭和五五年以来変わりなく、既存四業者に対して、し尿及び浄化槽汚泥の運搬業許可を与えており、近年、本件区域内のし尿及び浄化槽汚泥の収集運搬量は増加傾向にあるものの、別紙2のとおり設備、従業員などを擁して既存四業者は右業務を行い、その結果、本件区域内のし尿及び浄化槽汚泥は支障なく収集運搬されており、住民からも苦情は出ていない。

ちなみに、既存四業者は、昭和六一年度には、し尿一万八八四八キロリットル、浄化槽汚泥三八五五キロリットル、合計二万二七〇三キロリットルを収集し、組合の設置するし尿処理施設に運搬している。

以上のとおり、既存四業者は本件区域内のし尿及び浄化槽汚泥収集運搬について十分な施設と能力を備えており、新規業者を加える必要はなかった。

(四) 新規業者参入の弊害

(1) 前記(三)に述べた状況で、新規業者の営業を許可することは、既存四業者の経営を圧迫することによって業者間の過度の競争を招来し、ひいては廃棄物処理法の目的とする「生活環境の保全及び公衆衛生の向上」を阻害する結果となる恐れがある。

(2) 下水道整備の進行

琵琶湖流域下水道計画に基づき、本件区域の属する彦根長浜処理区においては、昭和六〇年度までに処理場用地の買収をほぼ完了し、一部施設の調査及び基本設計が行われた。昭和六一年度には処理施設の詳細設計が行われるとともに一部敷地造成工事に着手し、昭和六二年度より処理施設の本格的工事に着工するとともに幹線管渠工事の延長を行うものとされている。本件区域の多賀町は昭和六三年度より、愛知川町及び秦荘町は昭和六四年度より、甲良町及び豊郷町は昭和六六年度より、それぞれ着工の予定である。

また、愛東町及び湖東町においては農業集落排水事業(農村下水道)の実施が全町において計画されており、既に一部稼働している。

以上の点から、今後し尿及び浄化槽汚泥の収集運搬量は確実に減少することが見込まれる。

このような状況で、新規業者の営業を許可することは、将来、し尿及び浄化槽汚泥の収集運搬事業の縮小等に伴う補償費の出費を余儀なくされることとなり、組合の財政に多大の負担を課することになる。

既に、許可業者で組織する協同組合から補償救済について関係当局に対し陳情がなされている。

(五) 判断過程

被告は、運搬業許可不許可処分が被告かぎりでできるものであるところ、事柄の性質に鑑み昭和六二年六月一〇日、同月一九日の二回に渡って会議を開き、副管理者(管理者を除く本件区域内六町長)の意見を聞き、慎重に検討したうえ、以上の点から不許可処分をしたものである。

(六) よって、本件の運搬業許可申請は廃棄物処理法七条二項一号及び二号に適合していないと認め、不許可としたものであり、本件運搬業不許可処分は適法である。

2  本件清掃業不許可処分について

(一) 既存四業者の経営圧迫による浄化槽法の目的不達成

被告は、昭和五五年以来変わりなく、既存四業者に対し清掃業許可を与えており、既存四業者は本件区域内に所在する浄化槽を清掃する十分な施設と能力を備えている。

新規業者の営業を許可することは、既存四業者の経営を庄迫することによって業者間の過度の競争を招来し、ひいては浄化槽法の目的とする「生活環境の保全及び公衆衛生の向上」を阻害する結果となる恐れがある。

(二) 浄化槽法三六条二号ホに該当する

浄化槽の清掃は、清掃の結果引き抜かれた汚泥(以下、浄化槽汚泥という)の収集運搬を伴うものであるが、これには運搬業許可を要するところ、原告は運搬業許可を受けておらず、また、被告は原告に対し、昭和六二年九月一七日に、運搬業許可業者と浄化槽汚泥の収集運搬について委託契約を締結し、その契約書の写しが提出されれば右事実を確認のうえ可否を決定する旨通知したが、原告は右契約を締結せず、右書類は提出されていない。

そうすると、仮に原告が清掃業許可を受けて、浄化槽清掃業を行おうとしても、清掃の結果引き抜かれた汚泥をその場に放置するか不正に投棄することになりかねず、公衆衛生上不適正な行為に出るおそれが強い。

よって、浄化槽法三六条二号ホに該当する。

(三) 判断過程等

被告は、前記1(五)のとおり慎重な検討を行い、前記2(二)のとおり、運搬業が不許可である場合の浄化槽汚泥の処理方法について適切な方法を有するかどうかを調査検討したうえで清掃業不許可処分を確定的になしたものである。

(四) したがって、本件清掃業不許可処分は適法である。

四  被告の主張に対する認否

1  本件運搬業不許可処分について

被告の主張1(一)は争う。

被告の主張1(二)のうち原告の申請が右計画に適合しないとする点は争う。

被告の主張1(三)の事実のうち、既存四業者に許可を与えてきたこと、昭和六一年度の実績は認め、その余の事実は否認する。

被告の主張1(四)の事実のうち、本件区域が琵琶湖流域下水道計画の対象地域であること及び愛東町、湖東町において農村下水道計画が実施されていることは認め、その余の事実は否認する。

被告の主張1(五)の事実は否認する。

被告の主張1(六)は争う。

2  本件清掃業不許可処分について

被告の主張2(一)の事実のうち、既存四業者に許可を与えてきたことは認め、その余の事実は否認する。

被告の主張2(二)の事実のうち、浄化槽の清掃に収集運搬が伴うこと及び原告に運搬業許可並びに委託契約のいずれもないことは認め、その余の事実は否認し、法的主張は争う。

被告の主張2(三)の事実のうち、浄化槽汚泥の処理方法について適切な方法を有するか調査したことは認め、その余の事実は否認する。

被告の主張2(四)は争う。

五  原告の反論

1  本件清掃業不許可処分及び運搬業不許可処分の必要性

(一) 浄化槽清掃業の実態

浄化槽の清掃は浄化槽を掃除し、汚物を抜き取り、新しい水を張ることから成るうえ、現在はバキューム車が使用され、その収集運搬まで行っているのが実態で、浄化槽汚泥の引き抜きにその収集運搬を伴わない清掃業は技術的には不可能である。また、収集運搬を他業者に委託することは、経済的に採算が採れず、また、現実問題として競争業者に委託することは不可能であり、浄化槽汚泥の収集運搬は清掃業の付随的業務という関係にあるというのが実態であるからである。従って、清掃業許可だけ与えて運搬業許可を与えない場合には、清掃によって生じた浄化槽汚泥をその場に放置するか、または、不許可のままに収集運搬するか、不法に投棄することを余儀なくされる事態が生ずることにもなりかねない。

(二) 清掃業許可申請とあわせて当該業務にかかる浄化槽汚泥の運搬業許可申請がなされた場合には、一対のものとして同時に許可することが必要である。

法は清掃業許可だけがなされ運搬業が許可されないという事態を予定しておらず、そのような事態を生じさせる解釈運用は、「廃棄物を適正に処理し生活環境を清潔にすることにより、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的とする」廃棄物処理法に全くそぐわない。まして、清掃業許可申請に対して、運搬業許可申請が不許可であることから「不正又は不誠実な行為を行うおそれがある」との規定に当てはめて清掃業についても不許可とすることは、清掃業許可制度を典型的な警察許可制度の一種であるとする通説判例の立場から到底許されない。浄化槽の清掃が市町村の自治事務とされず、浄化槽法が一定の技術上の基準に適合し、かつ、一定の欠格事由に該当しない限り、必ず許可する制度を設けた以上、市町村が清掃業者の「営業の自由」を不当に侵害してはならないことは言うまでもない。

廃棄物処理法七条および浄化槽法三六条を整合的に解釈すれば、被告は、清掃業許可申請とあわせて当該業務にかかる浄化槽汚泥の運搬業許可申請を受けた場合、運搬業務をあわせて行わなくとも、清掃業を行うについて支障がないだけの処理体制が整備されていない以上、従前の計画により浄化槽汚泥の収集運搬業務が支障なく処理されていることだけを理由として運搬業不許可処分をすることはできず、運搬業許可申請が廃棄物処理法七条二項三号、四号の要件を充足し、かつ、清掃業許可申請の要件を充足している場合には、両申請をあわせて許可し、浄化槽汚泥に関する処理計画はこれにあわせて変更しなければならないものと解すべきである。

(三) また、わが国の自由主義経済体制及び私的独占を禁止した独占禁止法の趣旨からして、許認可行政を通じて一定の取引分野において新規参入を制限し、当該分野における競争を制限する場合には、不許可処分は、処分の必要性が具体的でかつ明白でないかぎり違法となる。本件運搬業不許可処分は、既存四業者の圧力によりなされ、同業者の地域独占体制の維持に手を貸す結果となったものであるから、被告は既存四業者の既得権擁護をはかったものでなく公共のためにその必要があったことを主張すべきであり、収集運搬が支障なく行われているというだけでは足りないというべきである。

2  決定の先取りによる裁量権の不行使

本件清掃業不許可処分及び運搬業不許可処分は既存四業者の圧力をうけ、その経営の保護を優先するあまり、原告の申請以前の時点で新規業者は許可しない方針を決定ずみであったのであって、本件清掃業許可申請及び運搬業許可申請について、新規参入の必要性、参入による既存業者の営業への打撃の有無、これを許可すれば、本件区域内の業務量を越えることになるか、将来の予測はどうか等について具体的な調査検討をなさないままに不許可を決定したものであるから、本件運搬業許可が仮に自由裁量であるとしても、その裁量権を誤って行使し、あるいは濫用した点で違法である。

3  本件運搬業不許可処分について

(一) 廃棄物処理法七条二項一号、二号について

(1) 廃棄物処理法七条二項一号については、組合で収集運搬処分をすることが困難であるために、既存四業者に許可を与えてこれに当たらせているのであるから、この要件には適合している。

(2) 同項二号については、被告が計画に適合しないというのは、単に既存四業者でまかなえるというだけのことであって、原告の新規参入を認めれば処理計画が狂って遂行できなくなるということまでもいっているものではない。組合自身、昭和六二年度の処理計画において年々浄化槽が異常に増加しつづけていることを強調し、その回答書においても新規業者の参入の必要性を自認している。したがって、この要件にも適合している。

(二) 既存四業者の収集運搬量について

昭和五五年以降の既存四業者による浄化槽汚泥とし尿の運搬収集量の推移は別表3の処理量のとおりであり、昭和五五年度の一業者平均の浄化槽汚泥運搬収集量は約五〇五キロリットルであったものが、昭和六一年度には約九六四キロリットルと約一・九倍となっている。

よって、昭和五五年度の各業者平均約五〇五キロリットルが適正な運搬収集量とするならば、昭和六一年度までに三ないし四業者に新規参入させるべきであった。また、仮に昭和六一年度に新規に一業者に運搬業許可を与えたとしても一業者平均の浄化槽汚泥運搬収集量は約七七一キロリットルとなり、昭和五九年度の一業者平均の浄化槽汚泥運搬収集量約七六二キロリットルをうわまわる。したがって、原告に運搬業許可を与え、新規参入を認めたからといって、既存四業者の経営を圧迫することによって業者間の過度の競争を招来することはない。

かえって、既存四業者に限定しておくことは生活環境の保全及び公衆衛生の向上のためには許されない。

(三) 原告の新規参入により既存業者の経営を過度に圧迫するという状況はない

(1) 本件の運搬業許可申請は、清掃業許可を得て清掃を行うだけでは、営業として採算が採れないため、浄化槽汚泥を運搬収集することができるようにするためになしたものである。

(2) 本件区域内におけるし尿浄化槽の普及は昭和六一年度で組合の管轄する七町の総人口五万八六四五人に対し、浄化槽人口八八〇五人で一五パーセントにすぎない。今後、浄化槽の設置基数は後述のとおり増加する傾向にあるが、それを原告が全部独占することはありえず、既存四業者の収集運搬の持分も存続するのであるから、原告が新規に参入したからといって、既存業者の経営に打撃になることはない。

(3) し尿及び浄化槽汚泥の増加傾向

〈1〉 本件区域内の浄化槽汚泥量の昭和六一年度の伸びは七・一パーセント(約二五五キロリットル増加)であり、年々増加する傾向にある。滋賀県下では、県下一円で、浄化槽設置基数は急カーブで上昇を続け、昭和六一年度で四万二六八八基に達している。これは、昭和三三年を一〇〇とした場合、実に一万二三七三(一二三倍)という増加率を示している。これは、水洗化による生活改善を希望する消費者の指向があり、他方滋賀県下の下水道が未普及であるということから、必然的に家庭用浄化槽に依存せざるをえないということがもたらした現象であり、今後も増加する傾向にある。

〈2〉 合併浄化槽汚泥の増加

滋賀県下の下水道の普及率は昭和六二年度では一七パーセントにすぎず、県内家庭の汚水汚泥のほぼ五分の四が垂れ流しとなり、琵琶湖の汚濁が進行している。そこで、滋賀県は、昭和六三年度九月県議会の家庭用合併処理浄化槽(以下、合併浄化槽という)普及促進決議もあって、合併浄化槽の設置を極力推進しつつある。また、厚生省も昭和六二年度から合併浄化槽設置補助制度を発足させ、補助金の三分の一ずつを国、県、市が負担することとなった。

合併浄化槽はし尿のみでなく、風呂、台所等からの排水を一緒に処理し、BOD二〇ppmというレベルで処理しようというものであることから、浄化槽に蓄積される汚泥も家庭用単独し尿浄化槽(以下、単独浄化槽という)と比べると増加するため、浄化槽汚泥の収集運搬量も増加することとなる。

以上から、合併浄化槽汚泥量は今後も目覚ましい勢いで増加することは必然である。

〈3〉 琵琶湖流域下水道計画

本件区域は琵琶湖流域下水道計画の対象区域であり、彦根長浜処理区に属する。しかし、その整備状況は、彦根市内の浄化センター施設工事は着工したばかりであるうえ、昭和六二年度において管渠延長三・六キロメートル、累計四・七キロメートル、全体計画第一期で一〇〇・九一〇キロメートルの四・七パーセントにすぎず、特に、本件区域に接続する幹線は、わずかに多賀幹線が六二年度末で〇・七キロメートル、外の幹線は全くの未着手の状況にある。管渠延長をとっても、昭和六〇年度から六三年度まで四年間で一一・五キロメートルにすぎないから、一年でわずかに二・九キロメートルにすぎない。

このままのテンポで進行すれば、一〇幹線一〇〇キロメートルに達するには、実に三五年を必要とすることになる。現に、最末端に位置する湖東町、愛東町は、流域下水道の到達を待っていてはあまりにも長期間を要することを見込んで、早くから、彦根長浜処理区から事実上脱退して、農村下水道の供給に踏み切っている。

したがって、本件区域に下水道が普及することにより、浄化槽が減少することは遠い将来のことであり、浄化槽汚泥は今後増加の一途をたどることは明らかである。

〈4〉 以上のとおり、本件区域内では、一般家庭は今後し尿浄化槽を設置し、浄化槽汚泥はますます急速に増加する傾向にある。

(4) また、自家処理人口が毎年半分以下に減っていく傾向があることから、運搬業の対象となるし尿そのものも増えることになる。

(5) 以上からして、原告が新規参入しても、既存四業者との適度の競合は可能である。

(四) 組合し尿処理施設の処理能力の余力

組合が設置するし尿処理施設は、日量八〇キロリットルの処理能力がある。したがって、年間二万九二〇〇キロリットルの処理能力があり、既存四業者による年間処理契約量二万三〇九五キロリットルに比べてもはるかに余力がある。そして、本件区域の汲み取り対象人口四万九八四〇人のうち計画収集人口は三万六八八九人であり、一人一日に排出するし尿の量は一・二リットルであるから、汲み取り収集によるし尿の処理量は一日四三・二キロリットルとなる。そうすると、八〇キロリットルから四三・二キロリットルを差し引いた残り三六・八キロリットルが浄化槽汚泥を処理できることになる。まして、浄化槽汚泥は汲み取りし尿に比べ、量のうえでも回数(年一回)のうえでもはるかに少ないのであるから、処理能力の余力はなおさらあることになる。

よって、し尿処理施設の処理能力の余力からしても、本件申請を拒否する理由はない。

(五) 浄化槽設置者等の利益

(1) 高料金負担

浄化槽の維持管理料金は、財団法人滋賀県浄化槽協会に支払う法定検査料金と民間業者に支払う清掃汲み取り料金とから成る。このこと自体が住民にとっては二重負担高料金化の原因になっている。浄化槽の清掃維持管理の最終責任は設置者にあり、設置者が適当と思われる業者を選択して、清掃汲み取りの管理契約を結ぶことになっている。しかし、現実には業者が少なく、収集区域が限定されているため(地域によっては、一業者しか許可されていない)、あるいは、新規参入が不当に押さえられているための事実上の地域独占体制によって自由競争原理が働いていない。滋賀県環境整備事業協同組合による基準料金表があるが、拘束性はなく、しかも単独し尿浄化槽のみに適用されるにすぎない。

このため、下水道料金よりもはるかに高い浄化槽の維持管理料金が住民に押し付けられているのが実情である。また、適正な自由競争によるサービスの向上を妨げることにより公衆衛生を阻害することになる。

(2) したがって、本件申請に対して、既存四業者の経営維持を過度に配慮して不許可とすることは、設置者の業者選択の自由の幅を狭め、ひいては、申請者たる清掃業者の職業選択の自由、営業の自由を過度に規制するものであるから、本件運搬業不許可処分は憲法にも違反し、無効である。

(六) 補償について

下水道普及により既存四業者が廃業する場合の補償は義務づけられたものではないし、補償した例もない。また、許可にあたって「将来廃業しても補償を要求しない」との条件をつければよいのであり、現に右のような条件をつけている例もある。したがって、補償の必要性ということは不許可の理由とはならない。

4  本件清掃業不許可処分について

(一) 清掃業許可は覊束裁量

浄化槽法三五条による清掃業許可制度は、本来それ自体で処理する機能をもつ浄化槽の清掃等の維持管理であることから、法はこれを市町村の自治事務とすることなく一定の基準(技術適合基準、欠格事由不該当)に達したものは許可するものであり、その許可要件の認定には裁量が認められない。

本件清掃業不許可処分のように、新規業者の参入は既存業者の経営を圧迫するという既存業者の保護を理由とすることは、法律に違反し、違法である。

(二) 浄化槽法三六条二号ホ

(1) 浄化槽法三六条二号ホにいう「不正又は不誠実な行為をするおそれ」とは、その業者が不正又は不誠実な行為をしたとかの過去の実績に関することや、その規模能力から見て誠実に業務を遂行する能力がない等の事情から判断される事柄であって、同号イ、ロ、ハ、ニの事項に準ずる内容の一般的条項であり、委託契約書を提出しないからといって、この条項を根拠に不許可にすることは法の適用を誤っている。

(2) 加えて、清掃業不許可処分時には、不許可理由として浄化槽法三六条二号ホに該当するということは考慮されていなかったものである。

第三  証拠(省略)

理由

一  請求原因について

請求原因1の事実はすべて当事者間に争いがない。

二  裁量権の範囲等

1  し尿浄化槽清掃業については、浄化槽法三六条において、客観的な技術上の基準に適合すること(同条一号)、欠格事由に該当しないこと(同条二号)を許可要件として定めるに止まり、また、右許可制度の趣旨は、清掃業は、本来それ自体で処理する機能をもつ浄化槽の内部の清掃等の維持管理にあることから、地方自治法はこれを市町村の責務とせずに、ただ、専門的知識、経験を持ち必要な器材を有する者によって浄化槽が適正に維持管理がなされなければ市町村の生活環境の保全及び公衆衛生の向上に多大の影響を及ぼす可能性が高いため、主として技術的観点から許可要件を定め、この要件を満たした者に限ってその業務をなしうべきものとすることにあるので、市町村長等は右要件を充足していると認められる限りは必ず許可すべき拘束を受けるものと解すべきである。

他方、一般廃棄物処理業については、廃棄物処理法七条二項三号、四号において浄化槽法三六条一号、二号と同趣旨の要件を定めるほか、さらに廃棄物処理法七条二項一号において当該市町村による処理の困難性、同項二号において当該市町村の定めた処理計画との適合性という相当幅の広い要件が加えられており、また右許可制度の趣旨は、浄化槽内のし尿等も含め一般廃棄物を一定の計画に従って収集、処分することは、生活環境の保全及び公衆衛生の向上をはかることを目的とする市町村の責務(地方自治法二条九項、同法別表第二、二(十一))であるが、これをすべて市町村がみずから処理することは実際上不可能であるため、許可を与えた業者をして代行させることにより、自ら処理したのと同様の効果を確保しようとすることにあるので、右許可を与えるかどうかは、廃棄物処理法の目的と当該市町村の処理計画に照らし、市町村の汚物処理事務の円滑な遂行に必要適切であるか否かという観点から決定すべきもので、その意味において市町村長等には広範な裁量権が与えられていると解すべきである。

2  両許可制度の在り方

原告は浄化槽の清掃はバキューム車を利用して行われ、技術的経済的要請から必然的に浄化槽汚泥の収集運搬を伴うこと、他の業者に浄化槽汚泥の収集運搬のみを委託することは競業関係にあるため現実的には不可能であることから、清掃業の許可申請と右浄化槽の清掃の結果出た浄化槽汚泥を収集運搬することを目的とする運搬業許可申請がなされ、清掃業許可申請が浄化槽法三六条一号の要求する技術的要件を満たしているにもかかわらず、運搬業許可申請が処理計画に適合しないという理由で運搬業許可が得られないことや他業者への運搬収集の委託契約がないことなどから、浄化槽法三六条二号ホに該当するとして、清掃業許可申請をも不許可とすることは、結局のところ、運搬業に対する裁量権の行使により、浄化槽法が清掃業許可を覊束裁量にかからせたことを変更し、清掃業者の営業の自由や浄化槽設置者の業者選択の自由を不当に制約するものであり、むしろ、清掃業許可をしたうえ、右許可にあわせて処理計画も変更すべきであると主張する。

ところで、浄化槽汚泥も一般廃棄物(廃棄物処理法二条)であるところ、昭和五三年までは当時の廃棄物処理法施行規則二条二号により、清掃業許可を受けた浄化槽清掃業者が浄化槽汚泥の運搬業を行う場合には、同法七条一項の許可を必要としないとされていた。しかし、右規定は昭和五三年八月一〇日厚生省令五一号により廃止された。右省令の趣旨は、浄化槽が一般家庭に普及したことに伴い、浄化槽汚泥処理の市町村における一般廃棄物処理事業に占める割合が増加したので、清掃業許可を受けた浄化槽清掃業者が清掃後の浄化槽汚泥の収集運搬または処理を行うに当たっては、浄化槽汚泥の収集運搬または処理を事業の範囲とする運搬業の許可を要することとして市町村の処理計画との整合性を図ることにある。したがって、市町村には浄化槽汚泥を収集運搬処分する責任があり、清掃業の専門性に鑑みて清掃業の資格を有する者にのみ、浄化槽汚泥の収集運搬を代行させることによって、浄化槽汚泥の収集運搬と市町村の処理計画との整合性を図り、もって前記廃棄物処理法の目的を達成する責務があるというべきである。

仮に、原告主張のように清掃業許可申請があるごとに処理計画を変更すべきであるとすると、収集運搬の対象となるべきし尿及び浄化槽汚泥量には限度があることから、業者間の競争の激化を招き、特定の日に市町村の処理能力を越えた汚泥が処理施設に持ち込まれるといった事態を招来することにもなり、市町村の汚物事務の円滑な遂行のために汚物の受入れ能力を定めた処理計画を無用のものにし、さらには過度の競争の結果業者の設備の低下等による処理計画の破綻をもたらすことにもなる。また、右申請ごとに既存業者の業務範囲を減少させることは利益処分撤回制限の法理から見ても問題がある。

したがって、運搬業許可にあって、清掃業業務を中心に据えて清掃業許可との整合性をもたらせるように裁量権を制約すべきではないというべきである。

三  本件運搬業許可について

1  成立に争いのない乙第二号証、第六号証、証人文室實の証言により真正に成立したと認められる乙第二一号証、第二二号証、証人松宮重雄、同文室實の各証言及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一)  被告は本件清掃業許可申請及び運搬業許可申請を受けて、被告及び同人を除く組合を構成する六町の町長から成る副管理会の議会に諮問したところ、右議会は、昭和六二年六月一〇日及び同月一九日の各審議を経て、議会の議長、副議長、組合における総務建設各常任委員会正副委員長の意見も聴取したうえ、本件運搬業許可申請書、組合の処理量及び処理計画などの収集状況、住民からの苦情状況、既存四業者からの不許可の要望などを検討した結果、右議会は既存四業者で組合のし尿及び浄化槽汚泥は支障なく処理されているので、不許可という方向でおおよその合意に達したこと。

(二)  被告は右処理計画、既存四業者によって組合のし尿及び浄化槽汚泥が支障なく運搬収集されてきたという過去の実績、従前既存四業者にし尿及び浄化槽汚泥の処理を依存してきたという経緯からくる既存四業者の既得利益に対する配慮、琵琶湖流域下水道及び農村下水道の普及による既存四業者に対する救済措置の必要性、副管理者会の意向などを考慮して本件運搬業不許可処分をしたもので、原告主張のように既存四業者の保護のみを考慮して右処分をしたものではない。

2  当事者間に争いがない事実と前掲乙第六号証、成立に争いのない甲第一号証、第三号証、第五号証、第六号証の二、第七号証ないし第九号証、乙第一一号証、第一三号証ないし第一八号証(但し、第一三号証及び第一七号証の手書き部分は証人松宮重雄の証言により真正に成立したと認められる)、証人松宮重雄の証言により真正に成立したと認められる乙第八号証、第九号証、第一九号証、証人文室實の証言により真正に成立したと認められる乙第二〇号証、証人森継芳一、同松宮重雄、同文室實の各証言及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、且つ以下のとおり考察される。

(一)  組合のし尿処理施設の処理能力は日量八〇キロリットルであり、その内訳は設計段階ではし尿六八キロリットル、浄化槽汚泥一二キロリットルである。

(二)  組合の昭和六二年度一般廃棄物処理計画は、本件区域内の年間収集量がし尿一万八九九八キロリットル、浄化槽汚泥三六七三キロリットル、農村下水道汚泥四一四キロリットル、合計二万三〇八五キロリットルと予定し、これを別紙1のとおり既存四業者で収集運搬するものとしていた。

(三)  組合は昭和四九年に設立され、従前はし尿及び汚泥は投棄していたところ、昭和五四年九月からはし尿処理施設を設けて既存四業者のし尿及び浄化槽汚泥の搬入を認めたうえ組合自ら処分するようになった。被告は、昭和五五年以降既存四業者に右各許可を与え続けてきた。

また、住民からの苦情も、汲み取りになかなか来てもらえないという旨のものが、組合あるいは組合を構成する各町の町長に年間一、二件あるに止まった。

(四)  昭和五五年度以降昭和六一年度までの本件区域内の処理量の推移は別紙3のとおりであり、昭和五六年度以降昭和六三年度までの既存四業者の収集運搬設備等の推移は別紙2のとおりである。処理量は年々増加する傾向にあるものの、たとえば昭和五八年度から六一年度までの間に処理量は三四一二キロリットル増加しているが、既存四業者合わせて積載量一〇キロリットル、保有のバキューム車数一台を増加したに止まり、また、処理量の増加が大きかった昭和五八年度及び昭和六〇年度は設備に変化がなく、昭和六一年度に積載量が四キロリットル増加しているに止まる。したがって、既存四業者は設備を大きく変更することなく、運搬収集量の増加に対処してきた。

(五)  昭和六〇年度及び昭和六一年度の本件区域の人口構成を見ると、昭和六〇年度の本件区域内の計画収集人口五万八八七一人、浄化槽人口は八二二一人、非水洗化人口五万〇六五〇人、非水洗化人口中計画収集人口三万四一五九人、同自家処理人口一万六四九一人であり、昭和六一年度の本件区域内の計画収集人口五万八六四四人、浄化槽人口は八八〇四人、非水洗化人口四万九八四〇人、非水洗化人口中計画収集人口三万六八八九人、同自家処理人口は一万二九五一人であり、昭和六〇年度に比べ昭和六一年度は本件区域内の計画収集人口二二七人減少、浄化槽人口五八三人増加、非水洗化人口八一〇人減少、非水洗化人口中計画収集人口二七三〇人増加、同自家処理人口三五四〇人減少という結果となっている。したがって、前記(四)も考慮すると、本件区域内では、自家処理人口が計画収集人口及び浄化槽人口に転換することによっても収集運搬量が増加しているものと思われる。

(六)  滋賀県における一人当たりのし尿量は、昭和四六年度には年間約〇・五四キロリットルであったものが、昭和六一年度には〇・六四キロリットルになっており、年々増加する傾向で、これによっても収集運搬量が増加しているといえる。

(七)  昭和六〇年度及び昭和六一年度の実績では、本件区域における一人当たりの年間のし尿量約〇・五一キロリットル、浄化槽汚泥量約〇・四四キロリットルであり、組合の昭和六二年度の予測ではし尿量約〇・五五キロリットル、浄化槽汚泥量は約〇・四四キロリットルである。したがって、今後は単純浄化槽により水洗化する場合は収集運搬量は減少する。

(八)  合併浄化槽はし尿のみならず生活雑排水をも処理し、しかもBOD除去率を九〇パーセントとするので、し尿のみを処理し、しかもBOD除去率を六五パーセントとする単独浄化槽の汚泥量に比べ合併浄化槽の汚泥量は五・三倍になる。

本件区域は琵琶湖下水道計画の対象地域であるが、後記のとおりその整備が当分見込めない地域であるため、また、農村下水道計画の対象区域でも幹線から離れたところに住む住民(その数は一集落に二ないし三戸程度に止まる)は合併浄化槽設置補助制度の対象となり、浄化槽設置者は設置費用の二分の一を補助してもらえる。他方、合併浄化槽の設置費用は七〇ないし一五〇万円であって、単独浄化槽に比べ三ないし五倍高額であり、滋賀県では合併浄化槽設置を進める行政指導は一般家庭や小規模事務所に対してはしておらず、また、一般的に浄化槽の設置は新築の際なされることが非常に多いことから、本件区域内で合併浄化槽の設置基数が今後著しく増加し、その結果浄化槽汚泥が急速に増加するとは考えられない。

(九)  本件区域は琵琶湖流域下水道計画の対象地域で、彦根長浜処理区に属しているが、その進捗状況は、昭和六一年度に彦根市内の浄化センター施設工事は着工したばかりであるうえ、昭和六二年度において管渠延長三・六キロメートル、累計四・七キロメートル、全体計画第一期で一〇〇・九一〇キロメートルの四・七パーセントにすぎず、特に、本件区域に接続する幹線は、わずかに多賀幹線が昭和六二年度末で〇・七キロメートル、外の幹線は全くの未着手の状況にある。管渠延長をとっても、昭和六〇年度から昭和六三年度まで四年間で一一・五キロメートルにすぎない。したがって、右計画によっては当分の間収集運搬量が減少することはない。

(一〇)  愛東町、湖東町及び秦荘町常安寺地区においては農村下水道計画が実施されている。計画対象人口は愛東町五八六八人、湖東町一万一四二〇人、秦荘町常安寺地区二一〇人、合計一万七四九八人、昭和六一年度までに供用開始を受けているのは愛東町五七六人、湖東町一一〇二人、秦荘町常安寺地区二一〇人、合計一八八八人である。農村下水道はし尿のみならず生活雑排水をも処理し、しかもBOD除去率を概ね九〇パーセントとするものであって、いわば合併浄化槽の集団化したものであるから、農村下水道汚泥量は単純浄化槽汚泥量よりも多く、また、運搬収集の対象となる。他方、湖東町においては平成二年から、他の地域でも将来的にはコンポスト化によって、農村下水道汚泥は収集運搬の対象ではなくなる。したがって、農村下水道計画は数年間は収集運搬量を増加させるものと考えられる。

(一一)  本件区域の人口増加は急激ではない。また、下水道の普及が後れているため、浄化槽を設置して水洗化を計ろうとする指向がある。

(一二)  したがって、今後も、本件区域では、自家処理人口の計画収集人口、浄化槽人口、農村下水道人口への転換、し尿自体の増加、人口の増加、合併浄化槽設置基数の増加、コンポスト化を伴わない農村下水道の普及により収集運搬量が増加する見込みがあるが、他方、自家処理人口や計画収集人口の単純浄化槽人口への転換、合併浄化については費用負担や設置が新築の際なされることが多いこと、農村下水道についてはコンポスト化、人口が急増するとは考えられないことなどの、減少要因や緩和要因も併存しているので、従前に比べてその急激な増加を予測することは困難であり、本件運搬業許可申請が処理計画に適合せず、既存四業者の過去の実績に照らし、本件区域内し尿及び浄化槽汚泥の収集運搬が支障なく実行できるとした被告の判断は相当である。

3  以上を総合すると、原告の運搬業許可申請が、廃棄物処理法七条二項一号及び二号に適合していないとしてなした本件運搬業不許可処分は適法というべきである。

4  原告は、許認可行政を通じて一定の取引分野において新規参入を排除し、当該分野における競争を制限し、営業の自由や浄化槽設置人の業者選択の自由などを制限する場合には、不許可処分は、そうすることの必要性が具体的でかつ明白でないかぎり原則として違法となるべきであるところ、本件運搬業不許可処分は新規参入を拒否し、不許可とすべき積極的理由がなんらないうえ、本件運搬業申請を許可した場合に組合の浄化槽汚泥の収集運搬がより適切に実現されるかについて全く判断していないので裁量権の行使に誤りがあるか、これを濫用したもので違法であると主張する。

しかしながら、前示のとおり裁量基準として一定の技術的水準を有することなどの他に、いかなる基準によるべきかは市町村の汚物事務処理の円滑な遂行に必要適切か否かという観点から決せられるべきであり、既存四業者によりし尿及び浄化槽汚泥の収集運搬が支障なく実行できるか否かの判断により運搬業許可申請の許否を決することは、結局のところ市町村が自ら地域内のし尿及び浄化槽汚泥の収集運搬をしたと同一の成果が得られるかを判断しているものであって、法の趣旨目的に反することなく、被告の裁量権の行使が恣意的であるとはいえず、適法として許される範囲内のものであるから原告の右主張は理由がない。

四  本件清掃業許可について

1  前記のとおり清掃業許可制度は覊束裁量制度であるから、被告主張の既存四業者の経営圧迫による法目的の不達成のおそれといった事情を考慮して不許可とすることはできない。

2  浄化槽の清掃は必然的に清掃の結果引き抜かれた浄化槽汚泥の収集運搬を伴うことは当事者間に争いがない。そして、浄化槽清掃業者が自ら処分できるか、運搬業許可を得るか運搬業許可業者と浄化槽汚泥の収集運搬の契約を締結するのでなければ、結局浄化槽汚泥をその場に放置するか不正に投棄することになり、その業務に関し不正又は不誠実な行為をすることになるので、浄化槽法三六条二号ホに該当することになる。

3  成立に争いのない乙第一号証の一ないし一三及び弁論の全趣旨によれば、原告に自ら浄化槽汚泥を処分する能力がないことは明らかである。そして、被告は本件清掃業不許可処分後の昭和六二年九月一七日にではあるが、原告が運搬業許可業者との間で浄化槽汚泥を収集運搬するについての契約を締結することができれば清掃業許可を与える旨を原告に通知し、結局、原告は右契約を締結できなかったことも当事者間に争いがない。

これにより、被告は原告が浄化槽汚泥を適法に処理する方途を有するか否かの調査検討をしたものであって、本件清掃業不許可処分の瑕疵は治癒されたものと考えられる。

4  したがって、浄化槽法三六条二号ホに該当するとしてなした本件清掃業不許可処分は適法というべきである。

五  以上の次第で、原告の各請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

別紙1 許可業者等一覧表

〈省略〉

別紙2 収集運搬機材等の推移

〈省略〉

別紙3 湖東広域衛生管理組合関係処理量の推移(単位kl)

〈省略〉

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